ヘム鉄と非ヘム鉄を考える

  1. ヘム鉄はなぜ特別なのか?
  2. 鉄が吸収されるルート
  3. ヘム鉄と非ヘム鉄
  4. 鉄剤(医薬品の鉄)の特徴
  5. 鉄の静脈注射
  6. 亜鉛、銅、マンガン、セレンなどの役割
  7. ヘム鉄補給の目安量(~mg)
  8. まとめ
    1. 補足-増血に関係する鉄以外のミネラル
    2. 鉄に関するQ&A

1.ヘム鉄はなぜ特別なのか?

鉄の吸収量は消化管の粘膜細胞がコントロールし、身体がどの程度、鉄を必要としているかによって変化します。鉄が欠乏した時は吸収率を上げ、より多くの鉄を取り込もうとしますが、
吸収率には上限があり、これはヘム鉄と非へム鉄で大きく異なります。

ポルフィリン環に包まれた鉄は、他の鉄と区別して『ヘム鉄』と呼ばれています。赤血球中のへモグロビン鉄、筋肉中のミオグロビン鉄、酵素の中にヘム鉄を含むものがあります。これ以外の鉄は全て『非へム鉄』と総称されます。鉄は様々な食品に含まれますが、その多くは非へム鉄で、非へム鉄の吸収率は最大でも5%にしかなりません。また吸収率は一緒に摂った食品の影響を受けやすく、緑茶中のタンニンや野菜に含まれるフィチン酸は、非へム鉄の吸収を妨げてしまいます。

これに対しヘム鉄の吸収率は非へム鉄と比べると格段に高いため、栄養学ではヘム鉄は特別な存在なっている理由です。
これはヘム鉄が腸管の上皮細胞にある専用の入口(ヘム輸送体-鉄専用)を通って吸収されることによります。※腸管粘膜細胞内に取り込まれたヘムにヘム分解酵素(ヘムオキシゲナーゼ)が作用し、鉄が遊離する。そのため、鉄の必要量が増したとき、速やかに応じることができるのはヘム鉄です。

2.鉄が吸収されるルート

消化管粘膜細胞には、鉄の入り口(鉄の吸収ルート)が存在します。ヘム鉄だけが通れるヘム輸送体-鉄専用』と、遊離の鉄イオンが通る2価金属イオン輸送体『DMT-1』です。DMT-1は、鉄だけではなく亜鉛や銅などの金属(2価の金属イオン)の共通の吸収ルートとなっています。

鉄は過剰にならないようにヘム鉄の形で『ヘム輸送体-鉄専用』という場所から吸収され酸素に触れないようにタンパク質に結合され体内を安全に運ばれ必要に応じて利用し過剰にならないように調整され管理されています。

医薬品の鉄剤でもキレート鉄、乳酸菌鉄、酵母鉄でも、非ヘム鉄を用いて鉄の補充をするときには注意することがあります。それは、非ヘム鉄の殆どと、その他のミネラルは、吸収経路-DMT1を共有しているため、非ヘム鉄だけを大量に服用されると、ほかのミネラルの吸収を阻害することがあります。人の腸はゴッドハンドと言われ、非ヘム鉄を用いて鉄を補充するときには、ほかのミネラルとの吸収を考えた鉄の製品設計になっているか?がポイントです。鉄を入れさえすれば、良いのでなく、ほかのミネラルとの関係を考える必要があります。

鉄の働きにはタンパク質、亜鉛や銅、セレンやマンガンなども関係してきますので不足している栄養をチェックして改善量と質の良い物を複合で取ることが貧血症状やフェリチン値や全体の改善につながるので一部分を改善したいときこそ全体をみることが大切になってきます。

3.ヘム鉄と非ヘム鉄

ヘム鉄(非ヘム鉄以外)
ヘム鉄(ポルフィリン環に包まれた鉄)吸収率は最大で20~30%と高い。
鉄欠乏性貧血の改善に優れる。

へム鉄の種類
①肉・魚・レバーなどの動物性食品に含まれる鉄
②サプリメントでヘム鉄と表示されている鉄

■非ヘム鉄(ヘム鉄以外の総称)
吸収率は最大でも5%で、他の物質の影響を受ける。

非へム鉄の種類
医薬品
 ・クエン酸第一鉄(有機鉄) 2価鉄
 ・フマル酸第一鉄(有機鉄) 2価鉄
 ・硫酸第一鉄(無機鉄) 2価鉄
 ・ピロリン酸第二鉄(有機鉄) 3価鉄 

海外サプリメント(“キレート鉄”と表示されている非ヘム鉄)
・キレート鉄(アミノ酸やジペプチド等がキレート)

 サプリメントにヘム鉄と併せて配合される
・乳酸菌鉄
・酵母鉄

▶︎ イースト鉄(酵母鉄)は?
 植物性食品などに含まれている
 ・ホウレンソウやプルーン、レーズン、などの植物性食品に含まへている

調理器具からの溶出から摂取できる
 ・鉄鍋、鉄卵

動物性食品、大豆由来のフェリチン鉄
 ・動物性食品に含まれるフェリチン鉄、乾燥大豆から特殊な製造を経て抽出されるフェリチン鉄は非ヘム鉄です。
 ・フェリチン鉄はヘム鉄と誤解している方が多いですが、フェリチン鉄は非ヘム鉄です。 

※非ヘム鉄=無機鉄とするのは誤り。非ヘム鉄には無機鉄もあれば有機鉄もある。
※鉄剤の多くは2価鉄であるが、ピロリン酸第二鉄は3価鉄。


4.鉄剤(医薬品の鉄)の特徴

病院で処方される鉄剤に含まれているのは非へム鉄です。 クエン酸第一鉄、フマル酸第一鉄などは有機酸と結合した有機鉄で、無機鉄の鉄剤には硫酸第一鉄があります。

※非ヘム鉄=無機鉄とするのは誤り。非ヘム鉄には無機鉄もあれば有機鉄もある。※鉄剤の多くは2価鉄である(ピロリン酸第二鉄は3価鉄)。

鉄剤には1錠あたり、50~100mgという大量の鉄が含まれています。非へム鉄なので吸収率は低いですが、大量に摂ることで吸収量を確保しています。鉄欠乏性貧血では鉄の吸収が亢進しているので、吸収率を非へム鉄の最大である5%とすると、1日100mgの鉄剤を服用すれば、100×0.05=5mgの鉄が体内に入るはずです。

しかし、胃がむかむかして気持ち悪くなる、下痢や便秘が起こるなどの副作用で継続できない人も多くいます。大量の鉄を一度に飲んで大丈夫?という疑問を持たざるをえません。


5.鉄の静脈注射

高度の鉄欠乏性貧血であるが、副作用でどうしても鉄剤が飲めないという人に対しては、鉄の静注治療が行われます。これは注射で鉄を直接、血管内に入れる治療です。消化管を経由しないので100%体内に入ります。 人の鉄の静注剤(鉄化合物がブドウ糖と結合した溶液)には1アンプル中に鉄が40mg含まれています。

これをゆっくり静脈に注射します。血管から出た鉄化合物はマクロファージに取り込まれ、鉄は一旦フェリチンとして貯蔵されます。その後、少しずつマクロファージから鉄が出て、トランスフェリンに結合して、必要とする場所に運ばれます。

このように医薬品は、かなり非生理的な方法で身体に入って来るので、活性酸素発生源となって体内で思わぬ反応を起こすのではないか懸念されています。


6.亜鉛、銅、マンガン、セレンなどの役割

鉄剤のように単一のミネラルを多く摂ると、他のミネラルの吸収が妨げられてしまいます。そのため、いろいろなミネラルを複合体として補給するのが望ましいのです。何をどれだけ吸収したらよいかは、体内の情報に基づき腸管粘膜が決めてくれます。

微量ミネラルは、抗酸化酵素の補因子としての働きを持っています。
例えばセレンはグルタチオンペルオキシダーゼ、マンガン・亜鉛・銅はSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)、鉄はカタラーゼという抗酸化酵素の補因子です。

貧血があると、赤血球の膜が活性酸素によって壊されやすくなるため、赤血球の寿命が短縮します。ミネラルをバランス良く含むことで抗酸化酵素の作用が高まり、酸化を防ぐことができます。
また鉄は、体内で必要に応じ酸化や還元を受けています。ヘモグロビン鉄、ミオグロビン鉄、酵素鉄は還元型の2価鉄ですが、トランスフェリン鉄やフェリチン鉄は酸化型の3価鉄です。鉄の酸化・還元に関わる酵素であるフェロオキシダーゼの一種セルロプラスミンは、銅を補因子として持ちます。従って銅不足では鉄の代謝や運搬がうまくいかなくなります。

さらに、ヘム(ポルフィリン環)の合成には補因子として亜鉛や銅も関わっています。貧血の方はベースに栄養素の欠損があると考えられます。このため、鉄だけ補給してもヘモグロビン合成がうまく進まないことが多いのです。

亜鉛、銅、セレンは、有害ミネラルの排除に役立ちます。亜鉛や銅を多く摂ると、メタロチオネイン(金属結合タンパク質)の生成量が増加します。有害金属が体内に入ったときメタロチオネインによって捕捉され、体外に排池されます。 セレンを摂取すると、セレノメチオニンやセレノシステインの生成量が増加します。セレノメチオニンやセレノシステインは酸化還元、セレンの輸送作用を持つアミノ酸ですが、有害金属の体外への排潤にも関わっています。


7.ヘム鉄補給の目安(何mg?)

血清フェリチン値を目安に補給しましょう。
40 μg/mL未満では、1日45mg~
40~100μ g/mLでは、1日15mg~


8.まとめ

鉄欠乏性貧血を改善させるには、単純に鉄をたくさん摂れば良いというわけではありません。亜鉛、銅、マンガン、セレンなどのミネラルも併せて摂ることが大切です。製品選びには、安全性と効率性を兼ね備えた製品を選ぶことが大切です。


補足-増血に関係する鉄以外のミネラル

亜鉛
免疫機能の維持、解毒作用に関わる、組織の修復を促す赤血球をつくるのにも必要


非ヘム鉄の吸収に必要、免疫機能の維持、エネルギー産生に必要赤血球をつくるのにも必要

マンガン
タンパク質の合成に関わる、抗酸化反応に関わるエネルギー産生に関わる

セレン
免疫機能の維持、抗酸化反応に関わる、筋肉を維持するがんを防ぐ


鉄に関するQ&A

Q1.海外のサプリメントでキレート鉄というのがありますが、キレート鉄も非ヘム鉄ですが、何がキレートされているのでしょうか?

A.キレート鉄はアミノ酸やジペプチドをキレートした非ヘム鉄です。

Q2.キレート鉄も医薬品の非ヘム鉄と同じく、やはり吸収率は悪いのでしょうか?

A.ヘム鉄ほど吸収率は高くないようですが、特異的なトランスポーターを通って吸収されるとも言われています。

Q3.植物性食品、鉄鍋(調理器具)、酵母鉄も非ヘム鉄ですが、医薬品で用いる非ヘム鉄に比べて1度で摂取できる量が少ないため、身体への影響は気にしなくてもよいのでしょうか?

A.良いと思います。